アイヌ語の片仮名表記にどんな多様性があるのか自分用に大体纏めました。各行の中で縦に並んでいるのは、同じ音を表す文字が方式に依って色々ある事を表す。例えば /tu/ という同じ音を〈トゥ〉と書く方式と、〈ツ゚〉と書く方式と、〈ト゚〉と書く方式がある。小書きのハ行は樺太方言に現れ、北海道方言には使わない。
PDF : http://www.aa.tufs.ac.jp/~asako/unwritten/01-nakagawa.pdf
アイヌ語について現状の Wikipedia の記事はあまり品質が高くないけど、参考文献になっている中川 2006「アイヌ人によるアイヌ語表記への取り組み」はよく纏まっていた。
アイヌ語表記には大別してラテン文字を使う方式と、片仮名を拡張して使う方式がある。言語学者はラテン文字を使うのが普通。片仮名による方法でも、アイヌ語の構造に合わせて綺麗に定義してその通りに運用すれば精密に表記できるんだけど、今の社会的な状況から片仮名は「日本語話者にとっての読み仮名」のような役割も負わされてしまう。そうすると「日本語と食い違わない」「日本語を出発点にして大体読める」という配慮が優先されがち。アイヌ語の内的な体系に即した方式は「読みにくい」とされて定着しにくい。
アイヌ語の基本的な音節である〈チェ〉(ce)などを合字にしてみた。「合字だ」と意識されず、その音を表す単独の文字となるのが理想ではある(例えばエスツェット〈ß〉を見る度に〈sz〉に分解して読まないのと同様)。日本語を前提とした学習者が「無用な困難」を感じないようにする事を考えたら、結局こういう安易なのがいいかも。
沖縄でも平仮名を使って似た提案がありましたね。〈とぅ〉を融合したような字とか。
単純に〈チ〉と〈エ〉を一個のマスに押し込んでみた例が一行目。〈左〉という字に似た形になる。横線を共有させるなどして融合してみた例が二行目以降。
アイヌ語の仮名表記は音節末の子音を小書きの仮名で表し、これが結構な頻度で現れるから、それ以前の部分(開音節)の表記に小書きの〈ヤ〉などが現れると小書きだらけになる。例えば〈チョㇿポㇰ〉の〈ョ〉と〈ㇿ〉みたいな連続が起きる。〈チョ〉を一字に纏められれば、それを抑制できる。
これは日本語で〈ちょっと〉〈ショック〉などに生じる小書きの連続と同質だけど、頻度が違うんだよな。
アイヌ語の音節末子音って一拍(一モーラ)の長さを持つのかしら。日本語に似たモーラ基準の韻律なんでしょうか ? 記述が見当たらないので音声を聞くしかないか。